札幌地方裁判所 平成11年(行ウ)20号 判決 2000年10月03日
原告
株式会社合田観光商事(X)
上記代表者代表取締役
合田邦彦
上記訴訟代理人弁護士
藤野義昭
同
細井洋
被告
北海道知事 堀達也(Y)
上記指定代理人
伊良原恵吾
同
田野喜代嗣
同
木幡賢
同
加藤修
同
秦博美
同
伊藤正博
同
渡邉幹夫
同
石井健治
同
輿水昌明
同
鉢呂昭則
同
真屋幹雄
同
小林祐之
同
原田敏
同
萬寿壮三
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 取消訴訟の原告適格について規定する行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきである。
二1 そこでまず、本件認可処分の根拠規定が、本件における原告のように風俗営業を営もうとする者の利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかについて、検討する。
本件認可処分の根拠規定である法35条4項は、「国、都道府県及び市町村以外の者は、命令で定めるところにより、都道府県知事の認可を得て、児童福祉施設を設置することができる。」と定めているが、法35条4項及びこれに基づいて定められた児童福祉法施行規則37条2項、1項のほか、法全体の条項をみても、右認可に当たり、児童福祉施設の周辺において風俗営業を営もうとする者の営業の自由に配慮すべき趣旨の規定は見当たらず、また、児童福祉施設の周辺において風俗営業を営もうとする者を対象にその営業の自由等の経済的自由権が侵害されない利益を個別的具体的に保護しているとみられる規定も見当たらない。かえって、法1条は、児童が心身ともに健やかに生まれ、かつ、育成されるように努めなければならないこと及びすべての児童がひとしくその生活を保障され、愛護されなければならないことを法の基本的理念として定め、法2条は、国及び地方公共団体に、児童の保護者とともに児童を心身ともに健やかに育成する責任を負わせ、法7条、40条は、児童福祉施設の1つとして掲げられる児童厚生施設は、児童遊園、児童館等児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とする施設とすることとし、法45条は、児童福祉施設の設置者等に対し、厚生大臣が定める児童福祉施設の設備運営等に係る最低基準の遵守を義務付けているところ、このような法の基本的理念、法の定める児童育成の責任規定及び児童福祉施設の目的を定める規定等の趣旨からすると、法は、都道府県知事が法35条4項に基づき児童福祉施設の設置についての認可をするに当たり、当該児童福祉施設が児童厚生施設である場合には、当該施設が児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とするものでその設備運営等に係る最低基準を満たすものであるか否か等を審査し、一般的な公益を実現するという見地から当該認可の是非を判断することを要請しているにとどまるものであって、それ以上に当該児童福祉施設の周辺において風俗営業を営もうとする者の営業の自由等の経済的自由を個別的具体的に斟酌すべきことまでは要求していないことが明らかである。
右によれば、本件認可処分の根拠規定が、本件における原告のように風俗営業を営もうとする者の利益を保護すべきものとして位置付けられているとみることはできない。
2 次に、被告が木馬館に対してした本件認可処分が、直接又は付随的にでも、原告の権利若しくは法律上保護された利益を侵害し又は必然的に侵害するおそれがあるものといえるか否かについて検討する。
本件認可処分は、木馬館が本件児童遊園を法7条の定める児童福祉施設として設置してこれを運用することを可能ならしめるものであって、その直接の効果として、第三者である原告の権利を侵害し又は必然的に侵害するおそれがあるものでないことは明らかである。
また、風営法4条2項2号及びこれを受けた本件条例3条1項2号によれば、北海道内において、公安委員会は、法7条の定める児童福祉施設の敷地の周囲100メートルの区域内の地域では、風俗営業に係る営業所を設けることを許可してはならないこととされているところ、右各規定の適用によって、原告が本件土地に風俗営業に係る営業所を設けることができなくなるとしても、それは、公安委員会が本件児童遊園を法7条の定める児童福祉施設と認め、原告が風俗営業に係る営業所を設けようとしている本件土地が、本件児童遊園の周囲100メートルの区域内にあると認めることによって生ずる事実上の不利益であって、このような原告の受ける事実上の不利益は、本件認可処分があることによって直ちに生ずるものではないうえ(すなわち、木馬館によって本件児童遊園が現実に設置され、存続していることによって生ずるものである。)、前示のとおり、本件認可処分の根拠規定が保護している利益に係るものでもない。
右によれば、本件認可処分は、直接又は付随的にでも、原告の権利若しくは法律上保護された利益を侵害し又は必然的に侵害するおそれがあるものとはいえない。
3 以上によれば、原告は、右いずれの観点からみても、本件認可処分の取消訴訟における原告適格を有しないものというべきである。
三 原告は、本件認可処分の取消訴訟における原告適格を有する理由について縷々主張するので、以下その主張に沿って補足する。
1 原告は、風営法は、法と目的を共通にする関連法規であり、これらの法体系の中において本件認可処分の根拠規定である法35条4項は、当該処分によって侵害されるおそれのある個々人の経済的自由といった個別的利益をも保護している旨主張する。
しかし、風営法は、「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする」ものであり(同法1条)、法は、児童が心身ともに健やかに生まれ、かつ、育成されるように努めなければならないこと及びすべての児童がひとしくその生活を保障され、愛護されなければならないことを基本的理念とするものであるところ(法1条)、風営法及び法が公共の福祉の実現という抽象的な観点からは共通の目的又は理念を有するものであるといえるとしても、風営法は基本的には風俗営業又は性風俗特殊営業等を営もうとする自由を規制する目的で定められ、法は児童福祉を積極的に推進する理念の下に定められたものであって、その具体的な目的又は理念を異にすることが明らかであるうえ、風営法又は法がこれらの法律中の各法条において定める各種の許認可の対象及び許認可権者が全く異なることなどを併せ考えると、風営法が法と目的を共通にする関連法規であると解することはできない。
したがって、右と見解を異にする原告の右主張は、採用できない。
2 また、原告は、事業法及び風営法は、法と目的を共通にする関連法規であるところ、事業法3条の2は、社会福祉事業の実施に当たっては地域住民等の理解と協力を得るように努めなければならないと規定しているから、これらの法体系の中において本件認可処分の根拠規定である法35条4項は、児童福祉施設の近隣で風裕営業を営もうとしている者の利益を個別的利益としても保護している旨主張する。
しかし、風営法が法と目的を共通にする関連法規であるといえないことは前示のとおりである。また、事業法が法と目的を共通にする関連法規であるといえるとしても、事業法3条の2が、国、地方公共団体、社会福祉法人その他社会福祉事業を経営する者は、社会福祉事業その他の社会福祉を目的とする事業を実施するに当たっては、医療、保健その他関連施策との有機的な連携を図り、地域に即した創意と工夫を行い、及び地域住民等の理解と協力を得るよう努めなければならない。」と定めている趣旨は、社会福祉事業が、関連施策との有機的な連携を図り、地域に即した創意と工夫を行い、及び地域住民等の理解と協力を得ることによって適正、円滑に運営されることを期することにあると解されるところであって、同条が、社会福祉事業(ちなみに、本件児童遊園が属する児童厚生施設を経営する事業は、同法2条3項2号によって、社会福祉事業とされている。)を実施するために設置される施設の近隣で風俗営業を営もうとしている者の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものであるとは解されない。
したがって、右と見解を異にする原告の右主張は採用できない。
3 原告は、本件認可処分は、行政権を濫用してされたものであり、これにより不利益を被った原告は不利益処分の当事者と同視すべきであって、本件認可処分の取消訴訟における原告適格がある旨主張する。
しかし、本件認可処分が行政権を濫用してされたものか否かは本案の問題であって、本件認可処分の取消訴訟における原告適格の有無を左右するものではない。
したがって、右と見解を異にする原告の右主張は採用できない。
第四 結語
以上によれば、本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 橋本昇二 裁判官 小濱浩庸 島田正人)